
企業動画のアクセシビリティは、公開直前に自動字幕をオンにするだけでは整いません。画面にだけ出る数値や肩書き、話者が分からない字幕、キーボードで操作できないプレーヤーが残れば、視聴者は必要な情報や操作へ到達できないことがあります。
W3CのWCAG 2.2は、収録済みの同期メディアについて、音声内容を伝えるキャプション、映像の重要情報を伝える音声解説または時間依存メディアの代替、操作できる音声制御などを達成基準として整理しています。デジタル庁のDS-672.1「ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック」も、動画やSNSを使う広報向けに、キャプション、手話、音声ガイド、書き起こし、撮影・編集時の工夫を示しています。
この記事では、2026年10月19日時点のデジタル庁、W3C、YouTubeの公表資料をもとに、企業動画のアクセシビリティを企画から公開後まで管理する5つの確認を整理します。字幕そのものの読みやすさは企業動画の字幕設計、ライブ配信の準備は企業ライブ配信の設計もあわせてご覧ください。
結論:字幕・映像説明・操作を、台本と納品仕様に入れる
最初に、動画の種類、掲載先、目標とする規格・レベル、視聴者が音声や映像を利用できない場合に必要な代替手段を決めます。そのうえで、台本、絵コンテ、収録、編集、字幕、音声解説、書き起こし、プレーヤー、公開後確認を同じ制作表で管理します。
字幕は主に音声情報を文字で伝え、音声解説は主に映像でしか分からない情報を音声で伝えます。書き起こしは、音声と必要な映像情報を時系列で確認できるテキストにできます。役割が異なるため、一つを用意すれば常に他が不要になるとは限りません。
企業動画のアクセシビリティで揃える5つの確認
1.動画の種類と目標基準を先に決める
収録済みかライブか、音声のみか、映像のみか、音声付き動画かを分けます。WCAGの時間依存メディアに関する達成基準は、媒体の種類と適合レベルで必要な対応が変わります。たとえば収録済み同期メディアでは、キャプションはレベルA、音声解説または時間依存メディアの代替もレベルA、音声解説はレベルAAに位置付けられています。
「WCAG対応」とだけ書かず、対象ページ、規格の版、目標レベル、対象外とする範囲、確認方法を仕様書に残します。JIS X 8341-3:2016とWCAG 2.2は同じ版ではないため、調達仕様、契約、社内方針でどちらを基準にするかを曖昧にしません。デジタル庁のガイドブックは行政機関や事業者が取り組み方を学ぶ資料ですが、民間企業のすべての動画に同一の法的義務を一律に課すものとして扱わず、自社に適用される法令、契約、調達要件を別途確認します。
2.映像だけ・音だけに重要情報を閉じ込めない
絵コンテの段階で、画面にだけ出る氏名、役職、数値、操作手順、図表、場面転換を洗い出します。ナレーションや会話へ自然に組み込める情報は、撮影前に台本へ加えます。W3Cは、視覚情報の説明を制作初期から計画すると、後から別の音声解説を追加する負担を抑えやすいと案内しています。
「右の緑色を押してください」のように色や位置だけへ依存せず、対象の名称や形も伝えます。読み上げられない画面内テキストは、音声解説または書き起こしへ含めます。点滅表現は、W3Cが示す発作回避の考え方を踏まえ、1秒間に3回を超える点滅を避けます。音楽と話し声が重なる場合は、内容を聞き取りやすい音量差も収録・編集時に確認します。
3.字幕は会話以外も含め、自動生成を人が確認する
キャプションには、話した言葉だけでなく、内容理解に必要な話者名、効果音、音楽、笑い声などの非発話音も含めます。複数話者がいる場合は誰の発言か分かるようにし、画面内の重要情報を隠さない位置と表示時間を確認します。
YouTubeは字幕ファイルのアップロード、手入力、自動同期、自動字幕起こしを提供しています。一方、自動字幕は発音、アクセント、方言、雑音などで誤りが生じ得るため、YouTube自身も内容の確認と誤認識部分の編集を案内しています。社名、人名、製品名、医療・法律・技術用語、数値、否定表現は特に照合し、動画マスター、字幕ファイル、修正版、確認者を版管理します。
4.音声解説と書き起こしを映像差分から作る
音声解説では、主音声で説明されていない人物の動作、場面、図表、画面内テキストなど、理解に必要な視覚情報を会話の合間に伝えます。デジタル庁のガイドは、まず映像と音声の差異を確認し、無音時間を調べ、主音声と重ならないタイミングに説明を入れ、完成後に情報の漏れと聞き分けやすさを確認する流れを示しています。
書き起こしは、会話だけでなく意味のある音や映像情報を時系列でまとめ、ページ上で見つけやすくします。長い動画では見出しを付けると、目的の箇所を探しやすくなります。YouTubeでは、利用資格などの条件を満たすクリエイター向けに説明音声トラックのアップロード機能も案内されています。掲載先に機能がない場合も、説明付き別動画や説明を統合した音声、構造化したテキストなど、視聴者が実際に利用できる方法を選びます。
5.プレーヤーと公開ページを実機で確認する
プレーヤーは、再生・一時停止、シーク、音量、字幕のオン・オフなど、必要な操作をキーボードで実行できるか、フォーカス位置が見えるかを確認します。自動再生する音声が3秒を超える場合、WCAG 2.2は一時停止・停止またはシステム音量と独立した音量制御の仕組みを求めています。動画本体だけでなく、埋め込み先のページとプレーヤーを確認対象にします。
公開前はPCとスマートフォンで、字幕の欠けや重なり、画面内テキストとの競合、縦横表示、全画面表示、再生速度、字幕・説明音声の選択、書き起こしへの到達、リンク切れを確認します。公開後にプラットフォーム側の自動処理で字幕や音声トラックが反映される場合は、処理完了後の本番画面を再確認します。縦型へ再編集する場合は横長動画の縦型再編集、公開前の設定は企業YouTube動画の公開設定も参考にしてください。
制作仕様書に残す項目
- 動画ID、用途、掲載先、公開範囲、収録済み・ライブの区分
- 対象規格、版、目標レベル、対象ページ、確認方法
- 台本、絵コンテ、画面内テキスト、図表、重要な視覚情報
- 字幕の言語、話者表示、非発話音、表示時間、確認者
- 音声解説の対象場面、原稿、収録音声、主音声との重なり
- 書き起こしの範囲、見出し、掲載場所、更新担当
- プレーヤーの再生、停止、音量、シーク、字幕、キーボード操作
- 自動字幕の固有名詞・数値・否定表現の確認結果
- PC・スマートフォン・全画面表示の確認結果
- 公開後の修正窓口、元データ、字幕・音声ファイルの版
よくある質問
自動字幕が表示されれば十分ですか?
十分とは限りません。誤認識、話者不明、意味のある効果音の欠落、タイミングずれ、画面内テキストとの重なりを人が確認します。固有名詞、数値、専門用語は元の台本や収録音声と照合します。
字幕を動画へ焼き込めばよいですか?
焼き込み字幕は常に表示できますが、視聴者が非表示にしたり、対応プレーヤーで文字サイズや見え方を選んだりできません。画面内の重要情報を隠す可能性もあります。掲載先の機能と視聴環境を確認し、字幕トラック、焼き込み、書き起こしの組み合わせを決めます。
書き起こしがあれば音声解説は不要ですか?
目標とする基準と動画の内容によります。WCAG 2.2では、収録済み同期メディアのレベルAで、時間依存メディアの代替または音声解説という選択肢がありますが、レベルAAでは音声解説が達成基準です。規格への適合だけでなく、視聴中に映像情報を理解したい利用者のニーズも踏まえます。
すべての企業動画で同じ対応が法的義務ですか?
一律にはいえません。適用法令、業種、提供するサービス、公共調達、契約、社内方針、対象地域で要件が異なります。WCAGやデジタル庁資料を品質基準として参照する場合も、対象範囲と目標レベルを明記し、必要に応じて法務・アクセシビリティの専門家へ確認します。
公開前チェックリスト
- 動画の種類、掲載先、対象規格、版、目標レベルを決めた
- 映像だけ・音だけでしか分からない重要情報を洗い出した
- 色や位置だけに依存する指示と過度な点滅を避けた
- 字幕に話者と意味のある非発話音を含めた
- 自動字幕の固有名詞、数値、専門用語、否定表現を確認した
- 音声解説または必要な代替手段を動画内容に合わせて用意した
- 書き起こしをページ上で見つけやすく、見出し付きで掲載した
- プレーヤーをキーボードで操作でき、フォーカスを確認できる
- PC・スマートフォン・全画面で字幕、操作、重なり、リンクを確認した
- 公開後に本番の字幕・説明音声・書き起こしを再確認した
まとめ:アクセシビリティは公開機能ではなく制作仕様
企業動画のアクセシビリティは、字幕ファイルだけの作業ではありません。動画の種類と目標基準を決め、映像と音声の差分を台本で減らし、字幕、音声解説、書き起こし、プレーヤー操作、本番確認を一つの工程にします。制作会社、Web担当、広報、掲載プラットフォームの役割を先に分けるほど、公開直前の作り直しを減らせます。
動画の納品物を用途別に整理する方法は企業動画の納品仕様、Webページ側で動画情報を整理する方法は企業動画のLLMOもご確認ください。
アクセシブルな動画制作フローを整えたい企業へ
株式会社メディカルアトラクトでは、企業動画と掲載ページについて、台本、画面内情報、字幕、音声解説、書き起こし、プレーヤー、公開後確認を一つの制作表へ整理します。お問い合わせページから、対象動画または企画、掲載予定のWebページ・YouTube、想定視聴者、目標とする基準、利用できるマスター映像と音声トラックをお聞かせください。初回の相談では、台本から直せる項目、字幕で補う項目、音声解説・書き起こしが必要な場面、既存動画で優先して改修する順番、社内と制作会社の担当分担を具体化できます。
動画・Web制作を含む支援範囲はサービスページ、制作・運用例は制作実績ページをご覧ください。
本記事は株式会社メディカルアトラクト編集部(動画制作・Web運用担当)が、デジタル庁、W3C、YouTubeの公表資料を2026年10月19日に確認して作成しました。
参考にした一次情報
- デジタル社会推進標準ガイドライン(デジタル庁)(2026年10月19日確認)
- DS-672.1 ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック(デジタル庁)(2026年10月19日確認)
- Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2(W3C)(2026年10月19日確認)
- Making Audio and Video Media Accessible(W3C WAI)(2026年10月19日確認)
- Audio Content and Video Content(W3C WAI)(2026年10月19日確認)
- 字幕を追加する(YouTubeヘルプ)(2026年10月19日確認)
- 自動字幕起こし機能を使用する(YouTubeヘルプ)(2026年10月19日確認)
- 音声による説明を追加する(YouTubeヘルプ)(2026年10月19日確認)
本記事は2026年10月19日時点の公表資料に基づく一般的な動画・Web制作運用の整理であり、個別案件への法律上または適合性認証上の助言ではありません。適用される法令、規格、調達・契約条件、目標レベル、必要な代替手段は、動画、掲載先、利用者、組織、対象地域により異なります。実際の要件と適合表明は、自社の法務・調達・広報・Web担当、アクセシビリティの専門家、必要に応じて所管機関へ確認してください。本記事はデジタル庁、W3C、GoogleまたはYouTubeの提携・監修を受けたものではなく、規格適合、法令適合、すべての利用者による利用、検索順位、再生数、問い合わせ、売上を保証しません。